TPPが与える日本の医療への影響を考える 2017年1月、アメリカのトランプ大統領がTPPから離脱する大統領令に署名し、アメリカがTPP交渉から永久的に離脱することが発表されました。

これにより、一時は締結が危ぶまれていたTPPですが、2017年11月11日、アメリカを除く参加11か国がTPP(環太平洋経済連携協定)の新協定の締結に大筋合意しました。

農作物や工業製品等のモノの関税撤廃が話題に上がることが多いTPPですが、当初アメリカが日本に対して強く迫っていたのが金融・保険サービスや医療品・医薬品に対する規制の撤廃です。このため、一部では「TPPの締結によって混合診療が解禁されるのではないか。」、「TPPによって薬価が高騰し、公的医療制度を維持することが難しくなるのではないか。」といった意見も出ていました。

それでは、TPPの締結によって、医療保険にはどのような影響があると考えられていたのでしょうか。そして、アメリカがTPPを離脱した今、金融・保険サービスや医療品・医薬品分野に関する懸念事項は、全くなくなったのでしょうか? 今回はTPPと医療の関係を紐解いて行きたいと思います。


TPPで混合診療が解禁される?保険・医療分野におけるTPPの争点とは?

TPP争点 TPPの交渉が始まった当初、保険・医療分野で特に騒がれていたのが「アメリカの強い圧力によって、混合診療が解禁されるのではないか?」ということでした。

ご存じの方も多いかと思いますが、日本は諸外国と比較すると、かなり充実した公的医療保険制度が整っています。 特に、アメリカとは比較にならないほど、国によって医療保険制度が守られています。

日本で病院にかかった場合に窓口で治療費を全額負担した、という方はあまりいないかと思います。 病院にかかった際には、保険証を提示することによって、実際の治療費の3割を会計の際に支払っている方が多いかと思います。

しかし、アメリカにはこのような公的医療保険制度がありません。 いったいアメリカの医療は日本とどう違うのか次で見て行きたいと思います。


アメリカの医療事情とは?

アメリカの医療事情 オバマ政権の時に発足した「オバマケア」と言う制度がありますが、アメリカ国内で反発にあい、なかなかうまく運営されていないのが実状です。

そのため、アメリカ国民は自分のお財布事情を考慮しながら病院や治療を選択する必要があります。 アメリカでは、お金がある人は高額な治療費を払うことによって、質の高い医療とサービスを受けることができます。

一方で、収入が少ない世帯では、何とか医療費を捻出してそれなりのサービスとそれなりの医療しか受けることができません。

そこで、アメリカで大きく発展したのが民間の生命保険会社です。アメリカには6,000社を超える生命保険会社があると言われています。

それと比べると日本の生命保険会社の数は約40社であり、その差は一目瞭然です。国が守ってくれないのであれば、自分たちで保険料を出して、自己責任で将来の医療費に備えよう、と言う考え方から民間の保険会社が大きく発展しました。

実に市場主義的でアメリカ的な考え方ですが、民間の保険会社がなければ治療費も賄えないため、そのような状況で民間保険会社が発展したことは至極当然のことでしょう。

次にアメリカがTPPで求めていたものについて言及していきます。


混合診療の解禁!?

混合診療 アメリカが「自由な貿易」を求めるTPP交渉の場で当初日本に求めていたのが、混合診療の解禁だと言われています。

日本には他国にも誇る公的医療保険制度があります。そのため、アメリカほど個人で民間の保険にお金をかける必要がありません。しかも、生命保険文化センターによると、平成25年時点で日本人の74%がすでに何らかの医療保険に加入しており、市場は飽和状態です。

そのような市場に、アメリカの民間生命保険会社が新規参入をしたところで、あまり旨味がないことはみてわかります。そこで、前オバマ政権がTPP交渉で求めてきたのが「混合診療の解禁」です。

「混合診療」とは、公的健康保険制度が使える保険診療と、保険が使えない保険外診療を組み合わせて診療を行うことです。現在の制度では、一部の例外を除いて、保険が使えない保険外診療を受けた場合には、通常3割負担で済む入院費用や検査費用も全額自己負担しなければならなくなってしまいます。

この、例外的な取り扱いが「先進医療」や「患者申出療養」です。これらの制度は、保険診療と保険外診療の組み合わせで行われる混合診療ですが、厚生労働省が認めた治療に限り、保険診療部分は3割負担で済むような仕組みになっています。


TPPが与える日本への影響とは

日本への影響 アメリカはTPP交渉でこの混合診療の範囲をもっと広めてほしい、全面的に認めてほしい、ということを主張していたと言われています。 混合診療を解禁することで、医療にかかる国民の自己負担が増し、民間医療保険での準備額が大きくなることが予想されたからです。

しかし、このことが日本国内で大きな反発にあうと、混合診療の解禁からその方針を大きく転換してきました。転換後の方針が「薬価の決定方法をもっとオープンにしてほしい。」ということです。

薬価に与える影響

日本で新薬を販売する場合には、厚生労働省がその値段を決定しています。そこで、アメリカが提案してきたのが「薬価の決定にあたって、もっと業界団体や企業が意見を出せるように規制を緩和してほしい。」ということでした。

薬価に対して企業が意見をだせるようになるということは、「このままでは利益が薄いから、もっと薬の値段を上げてほしい」という圧力がかけられるようになる、ということです。薬の値段が上がれば、医療費も高くなります。

しかも、日本の場合は公的医療保険制度からの支出が7割を占めるため、薬価の上昇は公的医療保険制度自体を脅かしかねない、という意見が日本国内から出てきました。

また、知的財産権にかかる条項が薬にも適用され、安価に入手できるジェネリック医薬品の購入も難しくなるのではないか、と言う懸念がありました。最終的には、アメリカを除いた形で新協定が締結されることとなり、アメリカが強く要請をしていた20の項目が凍結されることとなりました。

その中には、製薬企業のデータ保管に関する項目が含まれており、医療保険分野の投資に関する項目は将来にわたって留保する(適用しない)こととなりました。また、混合診療の解禁といった、公的医療保険制度の在り方そのものを変更する内容は含まれていません。


アメリカの離脱で懸念事項は払拭されたのか

アメリカの離脱 それでは、この新協定によって金融・保険サービスや医療品・医薬品分野に関する懸念事項は払拭されたのでしょうか。 まず注目したいのは、この新協定の凍結項目はあくまでも「アメリカが再度協定に復帰するまで棚上げとする。」項目だということです。

これは今後アメリカがTPPに再度復帰することがあれば、効力をもつこととなります。確かに、トランプ大統領はTPPから永久に離脱する、と明言していますが、いつどのように状況が変わるかわかりません。また、たとえTPPに復帰しなくとも、TPP離脱時に「二国間貿易交渉を進めていく」と宣言しています。

そこには、アメリカの1対1の関係でよりアメリカに有利な交渉を行い、国交を築いていきたいという思惑が見て取れます。つまり、製造業ではアメリカの国内メーカーを守る一方で、これまでアメリカが主張してきた金融保険サービス業および製薬業界での規制緩和を主張し続けることが予想されます。

現在の日本は、少子高齢化により、公的医療保険の財政負担が重くなっています。そのような状況下で、今後アメリカが自国企業の利益を追求して、自分たちに有利な交渉を進めてくる可能性は大いにあるのではないでしょうか。

今回は日本の医療に関わることについて言及しました。このような変化は日本の医療保険にも大きな影響を与えるので、ちょっと意識してみていただければと思います。

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